Teploobmen’s diary

興味のあること、調べたことなど、雑多にまとめていきます。調べている内容の途中経過を書くこともあります。

トランプ大統領の「日本車叩き」は事実誤認からくるものではないかもしれない

「的外れ」とされるトランプ大統領の日本車バッシング

 さて、日米首脳会談が行われたことは周知の事実だろう。

 その中で、特に日本の経済界から注目を浴びていた事案として、日本車へのバッシングが挙げられる。トランプ大統領は、1月23日に日本との貿易について名指しで批判を行った。

www.nikkei.com

 この記事を執筆している2017/2/2現在の段階の報道では、日米首脳会談で日本車へのバッシングは行われなかったようだ。

 この日本車バッシング対して、「それはアメリカの企業努力が足りないせい」だとか、「トランプ大統領の対日貿易観は80年代で停まっているのではないか」などといった批判が(少なくとも日本側では)相次いだ。

paradoxin.net

www.asahi.com

 また、80年代の貿易摩擦の結果、日本車の現地生産が増加し、現地での雇用を創出しながらシェアを拡大していったことに触れ、トランプ大統領の指摘を「事実誤認だ」とする批判もよく見られる。

economic.jp

 こういった批判の記事では大抵、「トランプ大統領の思考は理解不能」という文脈でまとめられている。だが、果たしてそうだろうか?

 80年代の文献を振り返ってみる

 私は、前回の記事でイノベーションと政策との関係について調べていく方針を示した。その調査対象として、アメリカの政策も含まれている。

 

teploobmen.hatenablog.com

  この調査を行う上で、絶対に外せない文献がある。競争力評議会の「ヤングレポート」だ。

 これは、所謂「ジャパンバッシング」が行われていた当時のアメリカで、産官学の有識者らによってまとめられた報告書で、アメリカのイノベーション政策の起点ともされている。

 この文献を読んでみたところ、トランプ大統領の指摘が、「データ」などというものでは決して否定できるものでないのではないかと思い至り、この記事を書くことを決心した。

スプートニクショック」と同列視される日本車の台頭

 その記事の序論の一部を翻訳し、引用してみると恐らく我々が思っているよりもはるかに、日本製品の台頭はアメリカ人にとって屈辱的だったということがうかがい知れる。

Those of you who were around some 25 years ago can remember what we felt at that very visible image of a Russian rocket blasting its way into space. That first sputnik wounded our pride, strengthened our resolve, and set off a national effort to be the first on the moon. And, of course, we were. What this country needs today is to have the Japanese launch a Toyota into space. Or perhaps a Sony Walkman.

The Competitive challenge we face today has consequences just as serious as a threat we felt a quarter of a century ago.  

 25年前、皆さんはロシアのロケットが宇宙に向かうというとてつもない画像に抱いた感情を、思い出すことができるかと思います。一番(にロケットの打ち上げに)成功したスプートニクは我々の誇りは傷つけ、我々の決意は強め、一番に月面着陸のための全国的な取り組みをの出発点となりました。そして、当然我々はやり遂げました。今日この国が必要とするのは、日本人にトヨタ-もしくは、ソニーウォークマン-を宇宙へ打ち上げさせることでしょうか。

 今日、私たちが直面しているこの競争力の課題は、半世紀前に私たちが感じた脅威と同じくらい深刻なものです。

 この文中で触れられている「スプートニクショック」とは、当時のソ連がアメリカに先んじて大陸間弾道ミサイル(ICBM)の打ち上げに成功し、アメリカは失敗した、という事件だ。

スプートニクショックとは1957年10月4日、ソビエト連邦による人類初の人工衛星スプートニク1号」の打ち上げ成功によって、アメリカ合衆国や西側諸国に走った衝撃や危機をさします。

スプートニクが打ち上げ成功する前までは、アメリカは自国を「宇宙開発のリーダーであり、それゆえミサイル開発のリーダーでもある」と豪語していました。

xn--jaxa-o29gg17p.com

  つまり、アメリカ人が当時抱いていた「ソ連より我々の方が優っている」という自信を粉砕された事件と同程度に日本製品の台頭はアメリカ人のプライドを傷つけていたということだ。

なぜ「国家の危機」と同程度の衝撃だったのか

 だが、よくよく考えてほしい。確かに、アメリカ人にとって日本製品の台頭は脅威だったかもしれない。事実、ジャパンバッシングが起きたときは、ちょうどアメリカが高インフレ、高失業率に悩まされていた時期だ。。だが、それが「冷戦に負け、アメリカ合衆国が消滅するかもしれない」という危機感・焦燥感と、同程度とはにわかには信じがたい。ヤングレポートで触れられている「プライド」とは、何から生じるものなのだろうか?

1.共通点

 まず、スプートニクショックと日本の台頭によるとの共通点を洗い出してみよう。両者に共通する点は、

1.アメリカが他国に

2.「工業力」あるいは「技術力」で

3.劣っていることを見せつけられたとき

4.アメリカのプライドは傷ついた

といえる。では、なぜ工業力や技術力の劣等感が、国の誇りに傷がつくことへ直結するのだろうか?というか「国の誇り」とは何だろうか?今回はこれを恐らく類義語であろう、「愛国心」と読み替えて考察を進める。

 

2.「愛国心

 さて、この「愛国心」とは何から生まれるのだろうか?

 「愛国心」は祖国に対する愛着である。この愛着は自分の祖国に対しての、民族的、文化的、政治的、あるいは歴史的などの異なった観点によって特徴づけられ、またナショナリズムに近接した概念である

(Wikipediaより)

 このように、愛国心には様々な要素が作用している。最近では、移民の流入による愛国心(「ナショナリズム」とも)の高まりが指摘されている。

 

3.アメリカの歴史

 この「工業力」というものは、実はアメリカの歴史と密接に関係している。アメリカは、大雑把にまとめると以下のように発展してきた。

1.植民地時代

2.農業・工業による発展

3.西側の盟主

4.覇権国

そして、独立以降は工業力、技術力が国の発展に大きく寄与している。

アメリカ合衆国の技術と産業の歴史 - Wikipedia

・農業の発展、産業革命、世界大戦

 産業革命の段階で、アメリカは「標準化」「規格化」「互換性」などの概念が創出された。また、無線通信、電話、電球などの発明があったのもこのころだ。これらの要素は世界大戦においても発揮されることになる。

 

・西側の盟主として

 西側の盟主となったアメリカは、核開発、宇宙開発など、諸分野で世界を圧倒し続けた。(スプートニクショック、日米貿易摩擦などの事件もあったが)

 

・覇権国として

 ソ連崩壊以降、アメリカは覇権国としてやはり技術力、工業力ともに世界を圧倒する存在となった。具体的な例としてはハイテク産業が挙げられる。

 

 非常に大雑把にまとめたが、アメリカの発展に工業力や技術力が非常に重用な要素であったことは理解いただけるだろう。これらの「優越感」がアメリカ人の愛国心の一部になっていたのではないだろうか?そうであるとすれば日本の台頭が、スプートニクショックと同列視されたことにもある程度納得がいく。

 

4.アメリカ人にとっての自動車

 さらに理解を深めるため、ヤングレポートから、今に至るまで争点となっている自動車について見てみよう。

 よく、アメリカ人にとって、

 現代の大衆車の多くを占めるガソリン自動車を最初に発明したのはドイツ人のゴットリープ・ダイムラーやカール・ベンツであるとされるが、いずれも価格が高く、庶民に手の届く代物ではなかった。

 そこで、アメリカ人のフォードは、T型フォードを発明し、ガソリン自動車を大衆のものとした。これに端を発し、現代の資本主義の象徴である、大量生産・大量消費の経済(フォーディズム)が出来上がった。

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 フォード・モデルT Wikipedia パブリックドメイン

 つまり、大量生産・大量消費の経済システムは、アメリカの覇権を裏付けた、資本主義の根幹部分である。そして、自動車はその象徴だということだ。

 

 

5.小括

 つまり、アメリカ人にとって、自動車とはアメリカの豊かさの象徴であると同時に、資本主義(アメリカの基本的理念)の象徴であるのではないかと考えられる。

 自分たちが優れていると優越感を抱いていた工業分野で、ましてや、自分たちのアイデンティティの一部である資本主義を象徴する自動車分野で、日本に負けたという敗北感は、想像に難くない。

 

 その後、日本企業は自動車の現地生産を余儀なくされた。確かに対日貿易赤字は減った。だが、アメリカにおいて、いまだに日本車は・・・特にトヨタが健闘している・・・

www.pepsinogen.blog

 どのように捉えられるだろうか?

 

結論

 つまり、トランプ大統領が日本車批判を行った理由は「日本でアメリカ車が売れていない」ことでも「日本車がアメリカ人の雇用を奪っている」ことでも、「日本への貿易赤字が原因」でもなく、むしろ「アメリカの象徴(特に自動車自動車)がアメリカのものではないこと」なのではないだろうか。そう考えると、トランプ大統領の掲げる"Make America great again"というスローガンとも一致するのではないだろうか。

 

 もちろん、これは私の推論に過ぎないし、やや論理的には無理があることや、検討していない要素があろうこと、書いているうちにやや迷走しかけてしまったことは百も承知だ。それに「じゃあ日本車を売るのをやめます!」なんてできるわけがないし、だからどうなるというものでもない。だが、相手国の動向を探る上で、こういった心理的な分析もまた非常に重用である。一つの考え方として参考にしていただけたらと思う。

 

 また、自動車についてまとめているうちに「フォーディズム」という経済観念に振れた。トランプ現象が起きた原因にフォーディズムと近年続いた環境問題への取り組み(いうなれば、反フォーディズム)とも何か関係があるかもしれない。

 

(収拾がつかなくなってきたが、一応まとまったので公開しておく。大幅な内容の修正を行うかもしれない)