Teploobmen’s diary

興味のあること、調べたことなど、雑多にまとめていきます。調べている内容の途中経過を書くこともあります。

「マリカー」は「マリオカート」の略称ではないという判断について―審決文を読んでみる

 「最強」と讃えられる任天堂法務部の敗北に衝撃が走っている。任天堂が株式会社マリカーを相手取った商標登録異議申し立てで敗北した(つまり、マリカー社の商標は取り消されなかった)。この判断には「マリカー」が「マリオカート」の略称ではない、という判断が下され、物議となっている(まあもう1か月以上前の話なので「最近蒸し返されている」といった方が正確かもしれないが)。

 ここでは、この商標取消審判の審決文を読み、その内容を整理し、今回のような結論に至った理由を探っていく。また、同様な事案が発生しないような対策について探っていきたい。

 

 

 1.背景

togetter.com


 ことのあらましは上記まとめに譲るとして、ここでは概要のみを書いていく。「株式会社マリカー」なる会社が、マリオなどのコスプレを着た状態でカートを走らせる、という事業を営んでいた。そのマリカー社が、「マリカー」という商標*1ここに脚注を書きますを登録して事業を営んでいた。(ややこしい)

 この、商標「マリカー」の登録に対して、任天堂は異議を申し立てていた。


 

2.予備知識

2.1.読まなくていいところ

 審決文を読む前に、商標についての予備知識を記しておく。すでに登録された商標を取り消すためには、「登録された商標は本来登録されるべきではなかった」ことを立証しなければならない。これにはいろいろな種類があるのだが今回、任天堂は商標法第4条第1項の第15号と第19号に該当するという理由で申し立てをした。特許庁によれば、これらは次のような理由である。

iv) 他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれのある商標(商標法第4条第1項第15号)

例えば、他人の著名な商標と同一又は類似の商標を、当該他人が扱う商品(役務)とは非類似の商品(役務)に使用した場合に、その商品(役務)が著名な商標の所有者、あるいはその所有者と経済的・組織的に何らかの関係がある者によって製造・販売(役務の提供)されたかのような印象を与えるときなどがこれに該当します。

v) 他人の周知商標と同一又は類似で不正の目的をもって使用する商標(商標法第4条第1項第19号)

例えば、

  • イ)外国で周知な他人の商標と同一又は類似の商標が我が国で登録されていない事情を利用して、商標を買い取らせるために先取り的な出願をする場合
  • ロ)外国の権利者の国内参入を阻止したり国内代理店契約を強制したりする目的で出願する場合
  • ハ)日本国内で全国的に著名な商標と同一又は類似の商標について、出所の混同のおそれまではないが、出所表示機能を希釈化させたり、その信用や名声等を毀損させる目的で出願する場合

などが該当します。

 

2.2.要約

 つまり、任天堂は、まず次のハードルを越えなければならないことになる。

  1. 商標「マリオカート」が有名であること(大前提)
  2. マリカー」が商標「マリオカート」の略称として有名であること(第15項)
  3. マリカー」と「マリオカート」が同一または類似していること(第19項のみ)

 商標「マリオカート」は言うまでもなく有名だ(だが、任天堂はこの大前提から立証しなければならない)。今回の審判では「マリカー」が「マリオカート」の略称であるかどうかが争点になった。もう少しハードルはあるがそれについては全く議論されていなかったので割愛。

 

3.任天堂側の主張

 さて、任天堂はおびただしい数の証拠品(60個は超えている)を提示し、商標「マリオカート」が有名であることと、「マリカー」が「マリオカート」の略称として有名であることを立証しようとした。任天堂の主張はこうだ。

一般的にゲームの分野では、「ポケモン」、「ドラクエ」、「モンハン」、「パズドラ」、「スマブラ」等と、ソフトタイトルを省略する取引実情があり、それらと同様に申立人の引用商標は、需要者の間で「マリカー」と略称されている事実が存在する(甲18~甲34)*2

そして、引用商標が広く知られていることと関連して、当該略称「マリカー」も「マリオカート」を指すものとしてゲーム、ゲームソフト、おもちゃ等の需要者の間で浸透しており、広く知られるところとなっている。

 そこで、本件商標についてみると、本件商標は、引用商標の略称「マリカー」と同一である。

 つまり、

  1. 一般的な慣行として、ゲームのタイトルは省略された形で呼ばれる。
  2. マリオカート」の略称として「マリカー」が用いられている。
  3. よって、「マリカー」は商標「マリオカート」を指していることが広く知られている。
  4. つまり、「マリカー」は「マリオカート」と同一である。

 ということだ。「マリカー」が「マリオカート」の略称として使われている例として、ファミマガなどの雑誌や2chのまとめ記事*3などを列挙している(引用文献これでいいのか・・・?)。

 

4.審判官の判断

 だが、審判官は「マリオカート」が任天堂の商標として有名であったことは認めながらも、「マリカー」は「マリオカート」の略称ではないとした。なぜだろうか?審判文には次の通り書かれている。

しかしながら、申立人は、引用商標の略称を表すものとして、「マリカー」の文字が、申立人商品を表すものとして広く知られていると主張するが、その根拠として提出する証拠には、「マリオカート/MARIOKART」のゲームソフトウェアのタイトルとともにその説明文中に表示されたり、個人のブログ中に表示されているのみで、「マリカー」の文字が単独で使用され、申立人商品を表すものとして広く知られていることを認めるに足りる証拠もないことから、「マリカー」についての著名性の程度を推し量ることができない。

(略)

そうすると、(略)「マリカー」の文字が、申立人商品及び引用商標の略称を表示するものとして、本件商標の登録出願日前より我が国の一般の需要者の間に広く認識されるに至っていたとまでは認めることができない。

 つまり、審判官の理屈はこうだ。

  1. 確かに「マリオカート」と「マリカー」は併記されている
  2. だが、提出された証拠の中で、マリカー」が任天堂の「マリオカート」であることが明示されていない。
  3. よって、任天堂の提出した証拠では「マリカー」が「マリオカート」の略称とは認定できない。

 ということだ。

 ちなみに、3.で書いたように他の立件も「マリカー」が「マリオカート」の略称であるという前提を基に行われているため、却下されている。

 

5.対策

 つまり、今回の任天堂の敗北はマリカー」が自社の商標「マリオカート」の略称であることを明示してこなかったことが敗因となっている。

 こうした事態を避けるため、恐らく最も効率的な手段は略称についても商標または防護標章を取得しておくことだろう。

www.tm106.jp

 商標登録料、更新料は高くても数万円だ。自社のブランドを守るためにケチケチすべきではないだろう。

 ただ、防護標章は基になる商標が有名で無ければならないため、中小企業などには荷が重い。仮に、略称の商標を抑えないならば、自社の商標の略称には必ず注釈を設ける*4ようにしていくべきだろう。・・・なかなか非現実的だが。

 

5.興味深い点

 記事が長くなってしまうため、今回はここで筆をおくが、実は今回の審決の前段階で、任天堂側の商標に気になる動きがあった今後は、そちらの動向についてもまとめていきたい。

 

↓続きのようなもの

teploobmen.hatenablog.com

 

*1:登録5860284

*2:任天堂の提出した証拠物件の目録

*3:タイトルは「マリカーで3位なのに2位に赤甲羅ぶつけるアホ」で、当然マリオカートについて書かれている

*4:例えば今回の事例では、欄外に「『マリカー』は『マリオカート』の略称である」などと書いてもらう