Teploobmen’s diary

興味のあること、調べたことなど、雑多にまとめていきます。調べている内容の途中経過を書くこともあります。

インターネットが「扇動」を産んだのか―ヒトラーから得る教訓

 久々に突っ込み甲斐のある記事を見つけた。

gendai.ismedia.jp

 この記事の論旨は次のとおりだ。

1.情報化社会により、発信される情報が増えた

2.また、情報の検索が容易になった。

3.その結果、「ネット社会は自分が求める情報を検索し、その多くは自分の意見を肯定してくれるものになっていった。」

4.ここから、「考えない時代」が生じる

5.その結果、「(誰もが考えることなく反応できる)情報がネット上に提供されること自体が、たとえそんなことは意図しない情報であったとしても、その情報が重要なものであるかのごとく誘導する一種の扇動という役割をはたすのである。」

はい、典型的なインターネット陰謀論ですね。

 

1.発信された情報は、読まれていたのか

 だが、この筆者は、扇動のプロのこの発言にはどう対抗するのだろうか?

毎年毎年主知主義から発刊される新聞の洪水や書籍の全ては・・・幾百万という下級階層の人々の間に滑り落ちるのである。・・・すなわち、これらすべてわがブルジョア社会の文筆家の内容が正当でないか、あるいは著作物によってのみでは、大衆の心に達することができないのである

 

アドルフ・ヒトラー 「我が闘争」上巻より

 宣伝におよそ学術的教授の多様性を与えようとすることは、誤りである。大衆の需要能力は非常に限られており、理解力は小さいが、そのかわりに忘却力は大きい。

 つまり、作者が追慕する、インターネットのなかった時代でも、情報の洪水は起きており、それらは「大衆」の心に届いていなかった理解されていなかったことがわかる。

 もちろん、インターネットの発達によって、日々飛び交う情報は増えた。だがよくよく考えれば、もともと、「情報」の洪水が起きているところへさらに「情報」の大雨が起きたところで、洪水状態にあることには何ら変わりが無いはずだ。

 

2.インターネットが「考えない人」を産んだのか

 また、筆者の言説を要約すれば、インターネットにより検索が容易になった結果、自分の意見を肯定してくれる言説のみにたどり着くようになり、結果「考えない」人が増えた、といえる。だが、ヒトラーはこれについても明快な答えを残している。

その他に、大衆というのは無精なもので、古い慣習の起動にはまって動こうとせず、そして自分が信じているものにピタリしなかたり、自分が望んでいるものを書いていなかったりすると、自分自身からは好んでなにか書かれたものに手を出さない、ということがある。

(中略)

フィルムをも含めたあらゆる形式の像が、疑いもなく最も大きな効果を持つのである。ここでは人間はもはや知性を働かせる必要が無い。眺めたり、せいぜい全く短い文章を読んだりすることで満足している。それゆえ多くの者は、相当に長い文章を読むよりも、むしろ具体的な表現を受け入れる用意ができているのである。

(中略)

表現が、その読者たるものの精神的水準や本質的性質にピッタリ応ずれば応ずるほど、一般にその効果はますます大きいのである。

 つまり、インターネットがなくとも、「大衆」は自分の好む情報しか得ようとしてこなかったという現実が浮き彫りとなる。筆者の論理に則れば、新聞・雑誌・本が一般的なメディアであったこの時代であっても、「考えない人」は多数いた、ということが散見される。

 

3.結論

 以上のことをまとめれば、次のことが言える。

 まず、もともと新聞・雑誌・書籍が主な情報の伝達手段であったときから、「情報」は洪水状態だった。

 また、大衆はもともと自分の好む情報しか得ようとしなかった。

 そして以上の条件は、作者が掲げる「扇動されやすくなった」原因と一致する。このことから、以上の結論が導き出せる。即ち、

 「インターネットが、考えない人を作り、扇動されやすい大衆を産んだ」のではなく、「もともと考えておらず、扇動されやすい大衆が、インターネットによって扇動された」にすぎない。

 

 

 ここでは扇動のプロ、ヒトラーの「我が闘争」を引用しながら、批判を展開していきた。

 「我が闘争」は正直内容の半分はユダヤ人や社会体制への愚痴なので読む価値はないが、一部の言説、特に宣伝・扇動などの言説は傾聴に値する。「大衆としての自分」を見つめ直し、また「今」という時代を見直すために、「我が闘争」は一読の価値があるだろう。

わが闘争(上)―民族主義的世界観(角川文庫)

わが闘争(上)―民族主義的世界観(角川文庫)

 
わが闘争(下)―国家社会主義運動(角川文庫)

わが闘争(下)―国家社会主義運動(角川文庫)

 

  なお、思想的にはかなり危険な書物でもあり、その半分近くを愚痴が占めているので読むことを躊躇する方は、次の本をおすすめする。こちらは、ヒトラーだけでなく様々なプロパガンダを参照しているため、思想の偏りは少ない。

 なお、絶対に悪用しないようにということだけは念を押しておこう。

文庫 戦争プロパガンダ10の法則 (草思社文庫)

文庫 戦争プロパガンダ10の法則 (草思社文庫)

 

 

 最後に、人々が扇動されやすくなった理由を、ヒトラーの言葉でしめるとしよう。

 稼ぎのいいときはその後の理性的配分を考えるが、空腹はこの配分に対するすべての注意を覆してしまうのである

 我々には、まず社会のパイの拡大が必要なのである。