Teploobmen’s diary

興味のあること、調べたことなど、雑多にまとめていきます。調べている内容の途中経過を書くこともあります。

ドイツの失政がEU崩壊につながる

 EUが存亡の機にさらされている。ドイツが移民に寛容な方針を示し、難民がEUに殺到しているためだ。だが、当のドイツも、難民の悪影響からは逃れられなかった。その結果、ドイツでは「極右」とされるドイツのための選択肢が急進してしまった。これを受けて、ドイツ与党、キリスト教民主・社会(CDU・CSU)同盟は、難民の受け入れ数に上限を設けることで合意した。

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 この決定は、今まで移民を歓迎していたドイツにとって、大きな方向転換となることだろう。南部バイエルン州CSUからの強い要望に応えたものと見られている。

youtu.be

 しかし、この政策変更により、ドイツの、そしてEUの情勢がますます不安定になる可能性が出てきた。

 

 

1.なぜ難民を受け入れたのか

1.1.ドイツの思惑

そもそも、ドイツはなぜ難民を積極的に受け入れてきたのだろうか。そこには、ドイツが少子高齢社会によって

1.熟練技能者の減少

2.成長率の低下

という深刻な問題を抱えている。そのせいもあって、ドイツは"Industrie 4.0*1"(第四次産業革命)を主要政策として進めてきた。

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しかし、移民を受け入れることで、こうした大きな改革をせずとも2.は解決できる。また、1.の解決も可能とドイツの副首相は言っていた。

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 さらに、移民を熟練技能者に育て上げることで熟練技術者を安く雇えるようにし、ドイツ企業の競争力を高めたいという思惑も透けて見える。

社会の高齢化のために、今後20年間で850万人の労働者が不足します。この理由だけでも、今後数十万人の有資格労働者が移住する必要がうまれます。これを拒めば、私達の経済的繁栄を危険にさらしてしまいます。

München · Unser Land braucht Einwanderung - Wir in der SPD arbeiten dazu an einem gesetzlichen Rahmen

 つまり、ドイツは人口を増やすことで上記の問題を解決しようとしたものと思われる。*2

 

1.2.周辺国の反対

しかし、これらの政策に中東欧諸国は猛反発してきた。そもそも、主に中東から出発する移民がドイツを目指すと、どうしても中東欧を通過しなければならないからだ。一時期はトルコ経由でドイツ、スウェーデンに向かう通り道が「バルカンルート」と呼ばれ、ハンガリーなどは移民で溢れかえった。その結果、中東欧諸国は難民の受け入れ抑制を主張してきた。

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 そこで、EUは国境検問などを強化し、難民の流入を抑制しようと努力してきた。2015年10月には、ブルガリアで警官に難民が射殺される事件まで起こる。

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 さらに、フランスのルペン氏や、オーストリアのホーファー氏など、「極右」や「ポピュリズム」とされる政党を勢い付け、EUの権威を揺らがしてしまった。

 ドイツの思惑はEU内での摩擦を産んでしまったことになる。

 

1.3.ドイツへの悪影響

 しかし、寛容さをアピールしてきたドイツにも、移民の悪影響は及ぶことになる。もともと、ドイツ南部を中心に移民の受け入れ能力はパンク仕掛けていた。

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 移民への反対を公然化した一つの大きなきっかけは、大晦日の集団性暴行事件だった。

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 これを機に、「極右」とされる移民排斥運動が盛り上がってしまう。今回、CDU・CSU議席を減らす大きなきっかけにもなった。

 

2.難民受け入れ制限の影響は?

2.1.移民申請の現況

  そこで、メルケル首相は移民の受け入れ制限を決断したのだろう。だが、これは遅きに失した―というよりも難民の受け入れ政策自体が失敗だったことを裏付けてしまう可能性が高い。

 というのも、一昨年ドイツはEU域外から44万人から移民申請があり、昨年度は43万人について許可している。ほとんどの移民申請を許可しているかたちだ。しかし、昨年はこれが72万人分もの移民申請がある。本年はシリア情勢の安定、国境警備の強化が効果を奏してか、新規申請数は第二四半期時点で13万人(年間26万人*3 )程度でとどまり、申請許可数は同18万件(年間36万件*4 )程度と初めて許可数が申請数を上回ったが、昨年分と今年分を消化するだけで2年以上の時間を要しそうだ。

 

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(source: Asylum statistics - Statistics Explained)

 

2.2.「受け入れ」は何を意味するか

 ところで、メルケル首相の「受け入れ」が難民申請自体の制限か、それとも申請の許可数を意味するのかで問題が大きく変わる。

 仮に許可数を20万人に減らした場合、残った移民は難民申請が受け入れられないままドイツ国内に留まるか、他国に流出する事を意味する。仮に他国に流出するとして、果たしてこの交渉は上手くいくだろうか?これまでの交渉を見る限りかなり難しいだろう。

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 もしそうなれば、EU離脱の世論がよりいっそう高まることになるだろう。問題は、それがドイツ国内で起きるか、それともEU加盟国で起きるかだ。

 

2.3.解決し得ない根本的な課題

 仮に、新規申請数を絞るとすれば、現状混乱はおこりそうにない。新規申請数が20万件程度だからだ。EU全体の新規申請数も、今年は昨年より大幅に減少している。だが、問題はEU全体では移民の新規申請に対する許可件数は6割満たないという点だ。例えば、ギリシャ*5では、一昨年と昨年に合計6.1万人から難民申請があった一方、許可された人数はたったの0.7万人にすぎない。では許可の下りなかった難民は「はいそうですか」ともといた場所に帰るだろうか?

 もちろん、シリア情勢が安定すれば別だが、中東には新たな火種が生まれている*6

teploobmen.hatenablog.com

 

  さらに今後何事もなく難民申請が消化されていったとしても、その地でうまく暮らしていけるとも限らない。

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 EUには反移民の風潮が蔓延している。文化も異なる。自らのアイデンティティの一つである宗教の戒律を守らないよう強制された難民たちは、果たしてヨーロッパに同化できるだろうか?

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 しかも、未だに失業率が世界金融危機後の水準に留まるEUで、新たな労働者―自分たちより安く働く―が入ってくることに、果たして国家の主権者たちは「寛容」な姿勢をどれだけ貫き通せるだろうか?私は非常に懐疑的だ。

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(EU全体の失業率 source: tradingeconomics.com)

 

3.結論

  4世紀、ゲルマン人フン族に追われるかたちでローマ帝国領に侵入したことが、西ローマ帝国滅亡の遠因とされている。今起きている難民の大移動もそれの再現に思えてならない。

 この移民政策は、文化の異なる民族が大量に流入させることのリスクと、未だ立ち直り切れていないEU加盟諸国を顧みず、自国の利益を優先させたメルケル首相の失政だろう。ツケはおそらくEU全体で支払うことになるだろう。

*1:独語

*2:ただ、Industrie4.0はが「熟練労働者が減っても今以上の競争力を有するため」(=熟練労働者の給与は減る)の施策なのに人口を増やすってかなり矛盾した政策だと思う

*3:算出方法は単純に2倍したもの。平均の12倍で計算すると約20万人

*4:同上。平均を12倍すると27万人

*5:移民新規申請数は上位4番目

*6:逆を言えば、このまま中東が不安定ならEUが弱体化するため、それを望む勢力がいたとしても不思議ではない。例えばロシアとか